遺産分けで弟が行方不明なら…

遺産分けで弟が行方不明なら… 財産管理人と協議

 会社員のAさんは最近、父親を亡くした。遺言がなかったので法定相続人である兄とAさん、弟の3人で遺産分割協議をしたいのだが、放浪癖のある弟は5年前に日本を出国したきり、音信不通で生死も分からない。父名義の不動産や預貯金の相続手続きはどう進めればいいのだろうか。

 弟が行方不明である以上、このままでは父の財産をどう分けるかを決める遺産分割協議を始めることさえできません。このような場合はまず「不在者財産管理人」を決めることから手をつける必要があります。

 不在者財産管理人は、家庭裁判所が選任し、行方不明者などに代わって、その人が所有する不動産や預貯金、株式などを管理する権限を持ちます。親族や債権者など利害関係者が裁判所に申し立てます。

 申立人が候補者を推薦することも可能ですが、相続を控えている場合、裁判所が弁護士を指定して選ぶことが多いようです。仮にAさんが懇意の弁護士を推薦したとしても、Aさんと弟とは遺産分割上、利害が一致しませんから、裁判所がその弁護士を選任することはまずありません。

 Aさんは、兄と、選ばれた財産管理人と3人で、遺産分けの方針について話し合うことになります。ただし、相続は財産管理人に与えられた権限を越える重大な判断なので、遺産の分け方について裁判所の許可を得る必要があります。

 Aさんと兄は、弟が不在なのをいいことに、弟の相続割合を例えば6分の1と、法定相続割合の半分に抑えようと考えるかもしれません。しかし、東京多摩法律事務所の弁護士、小沢和彦さんは「正当な理由なく、弟の権利が侵害されるような遺産分割を裁判所が許可することはまずない」と指摘します。

 財産管理人の選任申し立ての費用は800円の収入印紙などです。財産管理人に弁護士が就いた場合の報酬は、家裁の判断で行方不明者の財産の中から支払われます。報酬は財産の大きさや業務の難しさなどに左右されますが、「管理だけなら年数万円、相続や不動産の売却などがあれば年数十万円はかかるのが相場」と小沢弁護士はいいます。

 父が亡くなった時点でもし、すでに弟が行方不明になって7年が経過していたとすると、家裁に「失踪宣告」を申し立てることができます。行方不明者届が警察署に受理されていたり、外務省を通じて在外公館に問い合わせても見つからなかったりした事実を示す資料が必要です。

 裁判所が調査をして失踪宣告がなされると、弟は法律上、7年経過の時点で亡くなったものとみなされます。その結果、弟には相続分がなくなります。Aさんが、弟の不在者財産管理人の選任や、失踪宣告などの手続きをせずに相続手続きを進めるには、生前に父親に遺言を書いてもらうことが欠かせません。

[日本経済新聞朝刊2015年10月28日付]

2016年6月17日